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  • 執筆者の写真Yoji Yoshizawa

Pavane pour une infante défunte

(オリジナルFB投稿:2016年12月24日)

ラヴェル曰く、「亡き王女」はルーヴル美術館にあるヴェラスケスのこの絵にインスピレーションを得たとのこと。「亡き」は特定の「王女の死」と勘違いされるところですが、これは「失われた時」とした方が正確です。

ヴェラスケスが描いたのはスペインハプスブルク家のマルガリータ・テレサ。この時分は4歳ぐらいと推測されています。神聖ローマ皇帝レオポルト1世の最初の皇后となりますが21歳で人生を閉じています。しかし彼女の人生、そして死は曲の主題ではありません。

ラヴェルが音で描いたのは「マルガリータのような」幼い王女が踊る情景です。失われた時に想いを馳せ、そこにいたであろう人物に息を吹き込み、物理的な時間の流れと切り離された永遠の時空間に聴こえてくるパヴァーヌを記したのです。そこに感じられるものは二度と戻らない時への郷愁であったり、いずれは成長してしまう幼女の純真さであったり、彼女を見る周囲の人たちが感じるひと時の癒しでしょうか。

不可逆な時間を自由に往来できる人間の想像力がアートという道具をもって「時」を切り取る。プルーストのマドレーヌは個人的な記憶への引き金でしたが、それと似たように作品は私たちが「人類として共有することが可能な記憶のトリガー」として残されるのだと感慨深く譜面を眺めています。

Merry Christmas to you all!

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