海から少し離れた観光地にいる。たくさんの店に挟まれた広い道路はなだらかに上り、そして海へと下る。ふと野鳥の姿を発見し、カメラを構える。もう一羽の鳥がその鳥と一瞬接触したと思うと私の頭上を飛んで行った。大きい。1mぐらいはあろうか。漆黒に白い水玉模様がちりばめられた鳥だ。珍しいのでカシャカシャと連写するがすぐファインダーの届かぬところへと飛んで行った。
振り返ると時を同じくしてバサバサと羽ばたく音がけたたましく耳を襲った。上を見ると大群だ。銀色で、丸っこく、平べったい体をした40cmぐらいの魚が体を密着させ緩やかな速度で飛んでいる。海の方向を見ると左上の方で思い思いに建物の二階あたりを向いてたむろしている。マンボウだ、それも二匹。私からすこし離れたところにいる観光客と思しき女性たちも「あら、魚がいるのねぇ」とにこやかに指をさして足を止めている。建物はオレンジっぽいハーフティンバーで油絵でゴッホのタッチで描かれたように変貌していた。私はカメラを改めて構えて連写する。連続するシャッター音が心地よい。しばらくするとマンボウの体が透明になってなって、他の魚と共にすーっと消えた。
オレンジ、黄土色と茶を基調とした油絵と化した道路へと視線を戻すと中央をディズニーの白雪姫みたいなドレスを着た女がゆっくりと歩いてくる。髪もディズニーのアニメのようなスタイルで中途半端な長さ、あるいはアップにしているのか、その動きとは反対に貴族的には見えない。アトラクションのスタッフなのだろうと納得し、カメラを縦に構えて二枚ほど写真を撮る。
彼女の正面に立っている私の方へとゆっくり、王族のようにゆっくりと、しかし確実に歩を進めてくる。このままではぶつかってしまうと思うと、道の端、私の右手へと素早く動き、跪いた。顔は私をにこやかに見ている。
私はおどけた風に17~8世紀のヨーロッパ貴族のやるような大仰なお辞儀を返し歩を進めた。
追記:こういう文章を書くと内田百閒と萩原朔太郎に影響されているのだなと感じます。