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  • 執筆者の写真Yoji Yoshizawa

ギターのオクターブ調整

この投稿は、ギターやベースなどを演奏されない方には、マニアックな内容となっておりますが、ご容赦ください。 ある地方都市では、高校生相当の年齢までの若者たちにダンスや音楽スタジオのあるスペースを行政が無料で貸し出しています。しばらく前になるのですが、ボランティアとして、ここで練習しているバンドにアドバイスするということをやっていました。練習スタジオは三つほどあり、週末は満杯です。バンドメンバーは初心者から、プロ志望レベルまで色々で、この施設からプロとして活躍している人たちもいます。 ある時、初心者のギターの高校生のアドバイスをすることになりました。真新しいギターを大切そうに抱えており、楽器への愛情が強く感じられました。家では可愛がって、磨いたり、いじれるところはいじっていたのでしょう。几帳面な性格の彼は、ブリッジのサドルを一直線に揃えていました。それを見て、若い頃の自分を思い出しつつ、「オクターブ調整ってググって次までにやっておいで」と宿題を出しました。次回、見事に調整されたギターをもって現れた彼の演奏が格段に良くなっていたことは言うまでもありません。というのも、オクターブ調整をやっていないギターはチューニングが合わないので、ちゃんとコードを抑えたり、スケールを弾いても、気持ち良く聴こえてこないのです。 ギターは打ち込まれたフレットの手前を抑えると。当該フレットとブリッジの間の弦の長さ(そして弦の太さ)に対応する音程がでる仕組みになっています。楽器の調律はたいへん奥深いものがあり、西洋音楽では、ピタゴラス、純正律、中全音律などがありますが、1オクターブを均等な半音で12分割する「平均律」に基づいた音楽が皆さんに一番なじみ深いものです。ギターのフレットは平均律に基づいた間隔で打ち込まれているので、ひとつの弦に指を置き、純にフレット上を動かすと半音で音程が変化するわけです。最近は中近東の音楽など、平均律とはことなる音律を演奏できるよう、複数だったり、可動式のフレットを装備したギターも作られていますが、日本の楽器屋さんではまず見られることはないでしょう。 フレットは基本的にまっすぐな金属(リュートなどの古楽器ではガット)がその役割を果たします。理論的にナットとブリッジのちょうど半分の距離にあたるところにフレットを打ち込めば、そこを抑えた時に出る音程は開放弦で鳴る音の2倍の周波数、一オクターブ上の音となります。ひとつの弦だけであれば問題はないのですが、まっすぐなフレットを、6つの異なる太さの弦を相手にこの作業をすると上手くいかないのです。開放弦で完璧なチューニングをしても、フレットを抑えるとなんだか音が合わないという現象が起きてしまいます。 そこで「オクターブ調整」が必要になってきます。弦の太さによって12フレットの音程は変わってしまいます。フレットは動かせないので、ブリッジの駒(サドル)を移動し、開放弦がなっている弦の長さを微調整することにより補正をするのです。12フレット上のハーモニックスが、押さえたときの音(実音)より高い場合は、ネック側へ。反対にハーモニックス音が、実音より低い場合は、ネックから離れる方向へと駒を移動させます。ネック側への移動は振動する弦長が短くなり、ブリッジ側へ移動すれば長くなります。写真は、PRSのブリッジで、私がこのギターで使っているElixir「09」ゲージに合せたセッティングです。 アコースチックギターやクラシックギターでは、一般的に「可動式サドルのあるブリッジ」は使われていません。オクターブ調整をやろうとしても簡単には出来ないのです。現在交換パーツとして可動式のブリッジは数種類販売されていますが、チタンなど金属で作っているものは音質に影響を及ぼしてしまいます。 オクターブ調整の問題はルシエール(職人さん)や、メーカーも熟知しており、上の3弦と下の3弦の位置がふたつに分けられ、ギターの軽い弦の方がネックよりに斜めにサドルが置かれていたり、上からみると稲妻のようになっているブジッジを装着してあったり(ジャズギターは結構これがスタンダードです)、微細なところではサドルの断面を観ると、ゲージが軽い方はネックよりに山の頂上方向へ、太い方はその反対方向へと傾いた削りかたがしてあるわけです。 さて、ここからが本題です。クラシックギターやアコースチックギターでも、演奏される方は、それぞれのお好みで弦を選びます。ゲージ、材質、色々と試されて、気に入ったものをお使いになります。ところがメーカーが想定して作ったギターのゲージとそれが必ずしも一致せず、極端な話、マーチンのドレッドノートにエレキ用のライトゲージを張っても、チューニングは合いません。工場出荷時に張られている弦がひとつのベンチマークになるのですが、「推奨」される弦のゲージを明文化して出荷している例としては、10年ぐらい前に購入したGodin Multiacについていたものだけです。ゴダイゴのステージで使っているGodinのナイロンエレアコではPro Arte Hard Tensionを張っているのですが、これは好みというより、Piezoの駒の設置位置に合せるためなのです。Pro Arteが嫌いというわけではなく、廣瀬達彦さんのヘルマン・ハウザー・モデルや、Juan Hernandezでも使っていたことがあります。現在は前者には、中学時代から慣れ親しんだオーガスティン、そしてHernandezにはスペインの乾いた大地をイメージした音を出すべくSavarezのCantigaを張っています。 生ギターやそれに準ずるエレアコでのオクターブ調整は、ルシエールやメーカーが想定したゲージに近いものがご自分の好みの弦と合致する場合は問題なし、あるいは微調整で対応できますが、どうしても合わない場合は、最終的には職人さんの手仕事をお願いするしかありません。



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