top of page
  • 執筆者の写真Yoji Yoshizawa

The Last Castrato

(オリジナルFB投稿:2016年4月15日)

去勢は古代シュメール文化まで遡って見られ、服従させる術、あるいは刑罰として存在していました。中島敦の「李陵」では司馬遷の「腐刑」が生々しく描かれています。しかしイタリアで16世紀中盤から始まったとされるものは異質です。声変わりする前の男児を去勢したのです。成長期の子供たちはテストステロンの不足から骨の成形が遅らされ、この状態でのハードな訓練により驚異的な肺活量と子供の声帯を有する歌手へと育ちます。


19世紀までこの歌手育成のための去勢は行われていたのですが、現在で言えばロックスターのようなステータスも得る可能性があったことから貧しい親が子供の明るい将来のため施術することもありました。これは中国の宦官のケースでも同様でした。


実在したカストラート歌手 ファリネッリを描いた映画をご存知の方もおられると思います。サントラはカウンターテナー(男性)とソプラノ(女性)の声を混ぜて作られているものです。


アレッサンドロ・モレスキ(Alessandro Moreschi)は歴史上、唯一人、独唱のレコーディングを残したカストラートです。音楽のために体の一部を失い、音楽のための存在である覚悟を強いられた彼の歌からは凄まじいものが感じられます。個人的には鳥肌が立つ歌です。

彼の名誉のために追記しますが、録音当時は40代ですでに出せる高音が下がってきており、全盛期ではないとの観方ができると思っています。またスタイル的に現代人にはわざとらしい、あるいは音程の不安定を感じさせる部分もあるでしょうが、当時のテイストがそのような歌い方を要求したであろうことも考慮に入れて聴くことが必要です。


最後の偉大なるカストラートは1922年に63歳で帰天しました。




閲覧数:9回0件のコメント

最新記事

すべて表示
bottom of page