ルネッサンス期の作家、ボカッチオの代表作である「デカメロン」は、黒死病が蔓延するフィレンツェから郊外へ避難した10人の富裕者がひとり一話づつ語った物語です。 メメント・モーリというラテン語は「死を忘れるなかれ」という意味で、キリスト教下の中世ヨーロッパでは現世の儚さを説くと同時に地獄、煉獄、天国がこの世の生の終えた者を待っているという思想が強調されるようになりました。この世での身分など関係なく、等しく、人々に訪れる死は、Dance Macabre(死の舞踏)で視覚化されているさまざまな身分を表す着衣をまとった骸骨の行進で表されています。 暗い話題かもしれませんが、当たり前の事実として人間の共通するエンディングである死は、より一層、生き方について考えさせられるものです。また限られた時間しかないのであれば、今の時を大切にしなければならないと思わせます。 武漢ウイルス禍で気持ちが暗くなるのは不自然ではありません。しかし、それに押しつぶされるよりは、メメント・モーリを意識し、大切に今を生きるように思考をコントロールすることに意味があると信じています。 1988年にフリッツ・ストラック(Fritz Strack)とレナード・L・マーティン(Leonard L. Martin)の論文(”Inhibiting and Facilitating Conditions of the Human Smile: A Nonobtrusive Test of the Facial Feedback Hypothesis")に重要な実験が挙げられています。被験者はふたつのグループに分けられ、ひとつは鉛筆を口に咥えるように指示されます。鉛筆は消しゴムと筆先が左右に別れるようにします。もうひとつのグループは、前に飛び出るように咥えるよう指示されます。前者では口がスマイルした時のそれになり、後者は口をすぼめた形になります。 被験者たちはこの状態で、マンガを見せられ、面白く感じるか尋ねられます。口の形がスマイルの被験者たちは、口をすぼめていた被験者たちより、マンガを面白いと感じたという結果が出ました。 実験デザインが一番簡単に説明できる例を挙げただけで、同様の結果はジョン・バー(John Bargh)によるものなどさまざまなものがありますが、それらの実験が指し示すのは、自分の気持ちがどうであれ、スマイルすることにより、スマイルが出てくる心理状態を作り出すことが出来るという事です。チャーリー・チャップリンの「スマイル」はこの実験結果と同じことを言っているんですね:Smile, though your heart is aching...。 不安、怒り、フラストレーションに心を奪われやすい時期ですが、心で感じていることをそのまま表情に出してしまっては負のスパイラルに陥ってしまいます。 Smile!
Yoji Yoshizawa
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