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  • 執筆者の写真Yoji Yoshizawa

黒いオルフェ

あまりにも長い間、親しんできた故か、とても好きであるということさえ忘れるのが、ルイス・ボンファの「カーニバルの朝」と「オルフェのサンバ」です。先ほど、前者を弾いていて、改めてその素晴らしさを感じました。 同時に脳裏に浮かぶのは、この2曲の聴ける1959年の映画「黒いオルフェ」と、その下地となっているギリシャ神話です。映画はヴィニシウス・ディ・モライスの戯曲「オルフェウ・ダ・コンセイサゥン」が原作で、舞台は現代(当時)のリオ・デ・ジャネイロです。 「神話」の括りで語られる物語の文献としての一意的ソースは現存せず、紀元前6世紀に詩人イビカスが「有名なオルフェウス」と書いた断片が最古のものと考えられています。


オルフェウスと言えば、その音楽で石さえも魅了したほどという人物像と、妻のユーリディチェを地獄から連れ戻すことに失敗する物語が思い浮かぶでしょう。戯曲・映画では、この二つのモチーフが採用されています。亡くなったユーリディチェを追って地獄へ赴いたオルフェウスはハデスと掛け合い妻を連れ戻すことを許されます。しかしそれには「地上に出るまで振り返ってはならない」という条件が課せられます。 どこかロマンチックな悲劇の印象は、ヴェルギリウスの時代のオルフェウス物語に負うところが大きいのではないでしょうか。詩人嫌いのプラトンは「饗宴」で、オルフェウスを神々を愚弄する卑怯者とネガティブに描写しています。 連れ帰る人物もユーリディチェという妻ではなく、ペルセポネ(ハデスによって地獄へ連れていかれた)であったり、ヘカテ(「死の女神」)であるという話もありますが、このあたりは古典の学術的専門領域ですので、「振り返ったために妻を生き返らせることができなかった」というストーリーで私は満足しています。 ところで、この「振り返ることにより災難に会う」というモチーフは聖書にも存在します。ロトの妻です。ソドムとゴモラが滅亡する時、神はロトを脱出させますが、振り返ってはならないと伝えます。この言葉に背き、振り返ったロトの妻は塩の柱になってしまうというお話です。 紀元前6世紀の時点で、「有名なオルフェウス」と言及された背景には地中海周辺で、この「やってはいけないと戒められたことをやってしまい、罰せられる」という物語のモチーフが広く知られていたと推察しています。「やってはいけない」としてしまうのは不適切かもしれません。というのも「振り返る」にも象徴的な意味が感じられるからです。 正直なところ、私はオルフェウスの神話が未だに良く理解できていません。しかし、どこか人間であることの「哀しさ」を感じさせる物語故に魅了され続けているのでしょう。




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