• Yoji Yoshizawa

泉鏡花とツグミ

「……ぶるぶる寒いから、煮燗で、一杯のみながら、息もつかずに、幾口か鶫を噛かじって、ああ、おいしいと一息して、焚火にしがみついたのが、すっと立つと、案内についた土地の猟師が二人、きゃッと言った――その何ですよ、芸妓の口が血だらけになっていたんだとさ。生々とした半熟の小鳥の血です。……とこの話をしながら、うっかりしたようにその芸妓は手巾で口を圧えたんですがね……たらたらと赤いやつが沁みそうで、私は顔を見ましたよ。触ると撓いそうな痩やせぎすな、すらりとした、若い女で。……聞いてもうまそうだが、これは凄かったろう、その時、東京で想像しても、嶮しいとも、高いとも、深いとも、峰谷の重なり合った木曾山中のしらしらあけです……暗い裾に焚火を搦めて、すっくりと立ち上がったという、自然、目の下の峰よりも高い処で、霧の中から綺麗な首が。」(「眉かくしの霊」より)


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